2024年5月10日(金)コォ・マネジメント株式会社の設立10周年記念イベント「採用セミナー in 岡山2024」が、岡山国際ホテルで開催されました。
第一部では、神戸大学大学院経営学研究科教授の服部泰宏氏による「採用面接官の持論と実践知」をテーマとしたセミナーと、株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆氏による「AIは採用をどう変えるのか」をテーマとしたセミナーが行われ、第二部ではコォ・マネジメント株式会社代表 窪田司を交えた対談を実施。
日本を代表する人事の専門家であるお二人の研究と、最新の採用についての見解を伺う貴重な機会をいただきました。
このレポートでは、学会でも発表したばかりという研究結果を披露してくださった服部氏によるセミナーと、日本のみならず世界中の注目を集めるAIによる採用についてお話しくださった伊達氏のセミナー、そして窪田を含めたディスカッションを振り返ります。
第一部 服部氏による「採用面接官の持論と実践知」
最初にご講演いただいたのは、神戸大学大学院経営学研究科で教授として採用学を研究されている服部泰宏先生。
「日本企業における組織と個人のかかわり合い」を軸にさまざまな角度から組織と採用についての研究を進めておられます。
この日の冒頭に服部先生が講義の前提として取り上げたのは、ある種のトレンドをもって繰り返してきている人事管理では現在、多様性や全体性とともに求職者の「エクスペリエンス」が重視されるといった、人に優しい「ウォーム」の流れが来ているという話題でした。
服部先生は「クール」な流れの中では触れられることのなかった一人ひとりの全体性が重視されており、それゆえに「ウォーム」について考えることが求められる時代背景がある、ということをここでは強調されました。
服部先生は経営者や人事担当者といった専門家の専門性を説明するものとして、これまでは暗黙知的なものとして捉えられてきたローカルナレッジを数値化し、データやエビデンスとして示すことが求められる時代であることにも言及。
代替できない可能性があるからこそ、AIが完全に追い付いてくる前に可視化して洗練していく必要があると問題提起しました。
講義の後半にかけては、面接官の持つ実践知すなわち「ローカルナレッジ」について解説。
会社の意向に沿っていることが前提であるにも関わらず、面接官が偏見を持っていることや即時決定を行っていることは、会社側の想定以上に自らの持論や信念、ロジックに基づいて動いている面接官が多いのではないかという、ご自身の問題意識について話されました。
服部先生はまた、研究を進める中で行ったプロジェクトで得られた結果として、どれほど会社の意向に沿うことを前提としてトレーニングを受けていても、面接官の信念が入り込む余地は多いことがわかったとし、面接官がどういう持論や信念を強く持っているのか、改めて確認することが必要だと説明しました。
これらの知見については直近の学会での発表後、初めて触れる内容とのことで、会場の熱気は一層高いものとなりました。
服部先生は最後に、優秀な面接官の実践知を抽出するプロジェクトで得られた知見についても共有し、各々の会社でも優秀な、「この人が採用した従業員はあまり辞めない」という面接官に注目し、その人がどのような点を重視しているのか、どのような方法で面接を行っているのかを分析し、共有していくことが面接を成功に導く方法のひとつであると締めくくりました。
第二部 採用学から考える最新の採用
続く第二部では、株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達先生が登壇。
「AIは採用をどう変えるのか」というテーマでお話しされました。
伊達先生は採用の分野においてAIを採り入れていくことを「採用AI」とし、スクリーニングやチャットボット、面接支援、ジョブマッチングといった分野での導入事例を紹介しました。
また採用は比較的AIの導入や活用が進んでいる領域であるとし、候補者のデータを大量に得ること、「候補者の能力や性格を客観的に見極めてくれるのではないか」という期待がAIには寄せられていること、採用がコストや工数のかかる領域であること、コストの最適化につながること、という4つの理由を提示しました。
ここで伊達先生は、AIの導入に対しては大きくリスク知覚、不安、技術・社会的影響の3つの反応タイプに分けられると話しました。
自社へのスムーズな導入には、「自分の信念や知識が完璧ではないので、修正していこう」といった知的謙虚さ、「使いやすそう、有益そうだ」と感じる有用性、「新しい技術は現状を脅かすものだ」と認識する現状維持バイアスといった点に注意を払うことが必要であると説明。
一方で「人は自分が2歳以上の時に発明された技術に対しては、否定的に評価する傾向がある」という、非常に人間味のある興味深いデータを示し、採用AIを導入時に社内で反対されても、「古い技術なので問題ない」という論法を使うという心理的なテクニックも紹介し、いかにうまくスムーズに導入するかというヒントを教示しました。
また伊達先生は一度AIを導入したものの、上手くいかずに排除されてしまう可能性についても言及。
「あるAIが失敗すると、他のAIも失敗するだろうと思ってしまう」アルゴリズム転移や、AIにも色々なものがあることを理解できていないために、AIを導入して少しでも上手くいかないと「AI全体が使えない」と思ってしまう心理が働く可能性を紹介しながら、これらについては対策も合わせて解説しました。
最後に伊達先生は、AIを採用で使うにあたっては使う人にも様々な影響があり、考えさせられる結果も出ているとし、採用はAIの活用が進むほど、倫理的な判断が非常に重要になってくる仕事になると締めくくりました。
第三部 採用学から考える最新の採用
続く第三部では、先生方2人にお互いの講演の中で気になった点を伺いました。
服部先生は伊達先生がお話しされた内容について、学生と接することの多いご自身の立場から、「2024年5月時点で約30%の学生が何かしらの形で生成AIを使っている」という結果を示すデータがあり、この30%を「知的謙虚さがある、新しいものが好き」と理解することについて質問されました。
これに対し伊達先生は、「生成AIを利用しているのはどういう人なのか、パーソナリティ上の特徴があるのかを見ていった時に知的謙虚さが抽出された」とし、その人のある特定の部分を説明するという理解でよいのではないかと回答しました。
また伊達先生からは、面接の各段階において様々な判断がなされる中で、面接官が「入社後に自分が面倒を見ることができそうだから採用して問題ない」といった感覚は、ローカルナレッジの中ではどう位置付けられるのかを質問。
服部先生は「日本的な配属を行う場面で、採用担当者と面接官と配属先の上司が違う場合は、社内マップを理解して配属する先のイメージをきちんと形成できているかどうかが成否の分かれ目になる」と回答しました。
お二人のお互いの講演についての興味の高まりに加え、窪田からは専用の担当者がいない、どこから取り組めば良いのかわからないといった悩みを抱える地方の中小企業は、採用の最初の一歩としてどういう人を選んでスタートしていくと上手くいくのか、経営ではどういう意思決定を行うと採用部門を立ち上げやすいのかといった質問をしました。
さらに会場からは、「優秀な面接官の持っている素養や、そもそもどういう人が面接官に向いているのか」、「実践知を活かしながら同時にAIの活用を両方バランス良く進めるための注意点やポイント」、「求人票などにおけるAIの有効な活用方法」、「AIの導入を進めるにあたっての理解と協力はどうすれば広げられるのか」といった質問が次々に寄せられ、先生方からは講演の内容をさらに深掘りした、具体的な事例や導入のための提案が示されました。
時間を延長し、それでも質問が途切れない大盛況の中、惜しまれつつセミナーは全行程を終了。
2時間半の間、期待を超える内容に圧倒され続けた参加者の次回セミナーへの期待値が急上昇していく中、服部先生と伊達先生のお二人は降壇されました。
服部先生伊達先生、岡山までお越しくださり、そして素晴らしい講演をしていただき、本当にありがとうございました!