少子化によって労働人口が減ることが明確になり、多くの企業が採用に難しさを感じるようになってきた昨今、中小企業は特に苦戦を強いられています。
優秀な人材は大手企業に取られ、応募数ゼロの年が続く。「誰でもいいから来てほしい」が本音になりつつある企業も珍しくありません。
求人広告を出しても同じページに並ぶ大手と比べると、給与・労働時間・休日日数など勝てる要素がない。
そういった会社にとって希望の光となるのがニッチ戦略であると、2022年2月に出版した「小さな会社こそが絶対にほしい!化ける人材採用の成功戦略」で窪田は述べています。
採用ニッチ戦略とは、狙う人材を絞り込み、他社とは違う魅力を打ち出していくことで、自社が本当に欲しい人材を採用していくための戦略。
採用ニッチ戦略そのものは、1980年にポーターが『競争の戦略』で提唱した普遍的な枠組に則っており、決して真新しいものではありません。
ではなぜそれが今改めて、有効であると言われているのか。
今回はコォ・マネジメント代表取締役である窪田に、採用ニッチ戦略へのニーズが高まる現状と、この戦略を選ぶべき中小企業が採用において何にコストをかけ、どう戦っていくべきかを聞きました。
これまでも「集中戦略」だった、中小企業の採用戦略
採用ニッチ戦略は集中戦略とも言われ、大企業のように採用に潤沢な費用がかけられない企業の多くは、これまでもこの戦略を選んできました。
ただ窪田によると、これまで中小企業にとって一般的だった集中戦略は、求職者に近い距離で採用活動をすることで、交通費や時間といった就職(転職)活動コストの低さを強みとしてきたとのこと。
つまり、ターゲットを「地元の学生」に集中させ、競争優位の源泉を「低コスト」にした採用活動だったといいます。
ところが新型コロナウイルスにより、人との接触を避ける対策が進んだ結果、採用活動はオンライン化に大幅シフト。
今や日本の、あるいは世界のどこにいても学生は交通費をかけずにオンライン上で開催される説明会に出席することができ、面接や、インターンシップもオンラインで参加することが一般的になりました。
地方の学生も、自宅にいながら東京など都会の企業に接触する機会が簡単に持てるようになったのです。
窪田はこういった変化による影響として、地方の中小企業がこれまでターゲットとしてきた地元の学生も、都会の企業に吸い上げられて採用できなくなったことを挙げています。
採用サイトに掲載する求人広告費を上げても、人材は採用できない
これまでの方法が通用しなくなった多くの企業では、リクナビやマイナビ、オファーボックスといった採用サイトやその他の求人広告にかける費用を増やすことを対策としています。
ただ、「それらにかける費用を増やせば採用がうまくいくのか」という問いに対する窪田の答えはノー。
例として地域を岡山に絞って10万円の広告を出していた企業が、「オンライン化で全国がターゲットになるから」という理由で47都道府県に470万円かけて広告を出しても、かけた分の効果は期待できないことを挙げます。
ここで窪田が推奨するのが、「自社がどんな人材を採用したいのかを明確にし、自社が持つ、競合他社にない魅力を打ち出す」、ウィズコロナ、アフターコロナにおける採用ニッチ戦略。
地元の学生の採用を狙い、地元にある特定の大学に対して訪問を繰り返すこともターゲットの絞り込みのひとつであると例を挙げました。
大学訪問は時間的コストが多少かかるものの、金銭的なコストはゼロ。
かけるコストをニーズに合わせて変化させていくことも、採用ニッチ戦略を成功させるカギと言えそうです。
また窪田は産後に社会復帰して働こうとしている女性を集めたいのであれば、「子ども1人につき1万円支給」といった子ども手当を高額にしたり、学校行事のある日に休みがとれる制度を導入したりすることも、他社との異なる魅力になると例を挙げました。
お子さんが3人いるママさんにとって、他の企業で働くより毎月3万円も給与が多くなることや、気兼ねなく行事に参加できることは大きな魅力になりますね。
1人につき1万円の子ども手当を支給しても、求人広告に100万円以上もかけることを考えれば、費用対効果は十分に期待できると窪田は説明しています。
採用ニッチ戦略による成功事例
続いて窪田は、これまで支援してきた会社やつながりのある会社も、採用ニッチ戦略によって採用を成功させてきたとして3つの事例を挙げました。
【事例① とび職人を募集、足場工事会社】
大阪にある足場工事会社では、とび職人を募集するために独立支援制度を設置。
募集する人材を「将来独立したい人」と定め、一定期間働くことで技術を身につけ、独立していけることをアピールしました。
独立後は働いていた会社から仕事を発注してもらうこともでき、道具も貸与できる制度を確立しているとのこと。
採用サイトでは高い給与を打ち出す会社も多い業界において、給与面では戦わず、独立志向というターゲットの絞り込みと、そのターゲットに限っては大きく響く魅力の打ち出しによって成功した事例です。
【事例② コンサルタントを募集、組織・人事コンサルティング会社】
東京にあるコンサル会社もそのひとつ。
この会社は、アカデミックな知見や研究ができる能力を必要としており、大学院卒の学生をターゲットとしていました。
ただ同社が狙う学生はほとんどが大学での研究職を求めており、民間企業に応募することはまれであるとのこと。
その一方でわずかながら「研究知見を活かして、実際に民間企業の支援をしたい」と考える学生がおり、同社では求める人材をそこに絞って採用活動を行い、毎年希望した採用ができているといいます。
これも広く候補者を集めるのではなく、ターゲットを絞ってそのターゲットに響く魅力を伝えて採用を実現しているニッチ戦略の成功事例です。
【事例③ Uターン希望者にオファー、岡山のインフラ会社】
岡山で、地元出身の学生を採用してきた会社の事例です。
これまでは合同説明会など、地元のイベントを通して地元出身者を集めてきましたが、思うように採用が進まなくなったことから思い切ってターゲットを変更。
オンラインを活かして全国各地にいるUターン希望者にアプローチしたとのこと。
この会社ではスカウト型の求人サイトを活用し、県外に進学している地元学生にスカウトメールを送ったそう。
「岡山に戻りたい」という意思がある学生だけが岡山の企業からメールを受け取るため、説明会の手ごたえは良好だったといいます。
新入社員4人中3人をスカウトメディア経由で採用できた成功事例です。
採用ニッチ戦略はこのように、「候補者が集められない」、「いい人材が来ない」という経営者や人事担当者のお悩みに応えることができる戦略であると窪田。
「自社のこれからのために、採用を再構築したい」という経営者や採用担当者にはぜひ、採用ニッチ戦略にも視野を広げてほしいと締めくくりました。
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